横組みの国語辞書には慣れていない、という方も多いと思うが、日常で目にする書類などはほとんど横書きだし、いまはカタカナで表記する外来語もたくさんあるので、実際はまったく違和感がない。むしろ、見やすいぐらいだ。
DVD-ROMも付いていて、パソコンと連動して使える。「大辞泉」は、時代の変化にも対応し、「読者にとって使いやすく、楽しく言葉に触れられる辞書とは」を考え抜いた一冊だと言えるだろう。
DVD-ROMには、カラーの写真や絵も多数収録されている。ためしに、「せん‐てい【剪定】」を検索してみていただきたい。言葉の説明とともに、木の絵がカラーで載っており、さまざまな枝の種類と剪定する箇所が図解されている。「大辞泉」は、庭木を剪定するのが趣味なのだろうか。剪定
にかけるなみなみならぬ熱意が感じられ、大変愉快である。
時代とともに柔軟に変化する部分と、「ここは譲れない」という独自路線を維持する部分。両方を兼ね備えた「大辞泉」を薦めたい。
撮影/松蔭浩之
毎日使っています。読むときは紙版で、引くときはアプリ版で。アプリ版も電車の中ではiPhoneで、そのほかのときはiPad miniで。紙版の横書きは予想以上に素晴らしい。こんなにみっちり文字が詰まっているのに見やすいんです。老眼がはじまった初老のぼくでもぐんぐん読める。デザインした鈴木一誌さんは天才だ!
アプリ版は画像が楽しい。ジャンル別では、「建造物」がいちばん多いのはわかるけど、2位が「食品」というのが笑えます(3位は「植物」)。以前は辞書を読むのがぼくの暇つぶしでしたが、最近は辞書を「見る」ことも加わりました。辞書は「引く」「読む」「見る」ができるんですね。
「装丁とブックデザインとはどう違うのか」とよく尋ねられる。大辞泉で「ブックデザイン」の項には、「本の装丁」の意のほかに「本の表紙の意匠、紙質、活字のタイプや大きさ、本の大きさや厚さなど、本の外観的な部分を総合的に考え、デザインすること」とある。ブックデザインのなかでも、辞書の仕事はとりわけ難しい。ページの余白をいかに減らせるかが問われるからだ。単に文字を多く収めれば良いわけではない。小さすぎる活字は読みにくく、真っ黒な誌面はページを繰る快感を奪う。『大辞泉第二版』が採用したのは、文字ごとの字幅を持つ「プロポーショナルフォント」を横組みしていく方式だった。字と字の間の余白を狭めることで、ページあたりの収容文字数を減らさずに文字を大きくできた。第二版「序」はこう書く。「文字の間隔を詰め、言葉の一覧性や視認性を高めて読みやすくしました」。さらにページ上部に、およそ4行分の余白を得られた。これが読者の目にひとときの憩いを与えていればと願う。ところで「プロポーショナルフォント」を立項している国語辞典はそうそうないだろう。
大辞泉のデータベースを、「XML」と呼ばれる汎用性の高いデータ形式に変換する仕事をやっています。とは言うものの、学生時代の専攻は理系でなく文系。推理小説・SF小説とともに辞書を愛する「辞書オタク」だった私ですが、縁あってデジタル系の仕事をしていくうちに大辞泉と出会い、今ではすっかりはまり込んでしまっています。紙の辞典では、類語や関連語はその項目の後ろに印刷するだけですが、電子データの場合、そこにある言葉をクリックすればその項目にジャンプしていく。そういったデータの関連づけは基本中の基本。ほかにも、あれもこれもと盛り込みたい機能がたくさんあり、「次はこんなことやりませんか?」「この部分を手厚くしましょう!」と、編集部と丁々発止のせめぎあいをする日々です。大辞泉を、私は「国語の辞典」ではなく、現代日本において意思疎通や表現のツールとして用いられる「日本語の辞典」だと思っています。従来の国語辞典の慣習にとらわれず、大胆かつ注意深く言葉を収集し、語釈を与えていく姿勢に注目して欲しいですね。
iOS用アプリ『デジタル大辞泉』の開発を頼みたい――。私が大辞泉編集部に声をかけていただいたのは2008年夏のことでした。当時は7月にiPhone3Gが日本初上陸したばかりで、アプリはほとんどない状態。ただ、「これから新しいことが始まる」という予感と熱気が満ちていて、なにより、編集長の「あれをやりたい。こういう機能はできないか?」との情熱には本当に驚かされました。「紙の辞典ではできないことを」ということで、曖昧に覚えている言葉でも検索できるようにしたり、手書き文字入力をライバルに先んじて導入したりなど、工夫に工夫を重ね、さらに起動時間や検索スピードの短縮化に力を注いできました。そして、今年5月、私たちのアプリは全面リニューアルを遂げました。新アプリでは、テキスト表現の美しさに注目してほしいですね。画面の表示を行うレンダリングエンジンをゼロから開発し、従来のアプリでは不可能だった、高度な日本語組版を実現しました。紙の見た目にグッと近づいていますが、文字サイズの変更や横書き・縦書きの変更など、アプリならではの自由な表現も可能になっています。