大辞泉が選ぶ新語大賞とは

選考結果発表

募集期間

2023年5月18日〜11月15日

投稿総数

1,773本

  1. 大賞
  1. 次点
  1. 次点
  • 選評

    【選考委員】

    田中牧郎(たなか まきろう)

    明治大学国際日本学部教授

    プロフィール

    1962年・島根県生まれ。東北大学文学部・卒業。東北大学大学院文学研究科・修士課 程修了。東京工業大学大学院社会理工学研究科・博士課程修了。明治大学国際日本学 部・教授。国立国語研究所・運営会議委員。日本語学会・理事。主な著書に『図解 日 本の語彙』(三省堂/共著)。『近代書き言葉はこうしてできた』(岩波書店)。『コーパ スと日本語史研究』(ひつじ書房/共著)ほか。

    大江和弘(おおえ かずひろ)

    『大辞泉』編集長

    プロフィール

    1971年・山形県生まれ。新聞社勤務を経て小学館入社。『女性セブン』『ビッグコミッ クスピリッツ』編集部などを経て、国語辞典編集部に。以降、主に『大辞泉』を担当。 直近の編集書籍は『小学生のミカタ おもしろ方言47都道府県まるわかり!』。

    コミカルだけど真剣な“政権批判”新語が象徴する、庶民の気持ち――

    コロナの話題が減り、戦争は各地で続いていますが、日本人にとっては物価上昇が最大の悩みの種となった1年でした。それを反映して【ステルス増税】が6月の、【増税メガネ】が10月の月間賞となりました。とくに後者は、国会の場で岸田総理も苦笑いしつつ、強く否定できなかった言葉。これまでの総理もルーピー(鳩山由紀夫氏)、イラ菅(菅直人氏)など悪口は言われるものでしたが、ときの野党支持層が主な発信元でした。しかし今回のは自民党支持層からも聞かれます。コミカルな響きではありますが、おカネのうらみが左右を問わず蓄積しているとみるべきでしょう。投稿数トップの【アレ】は単なる指示代名詞ですが、阪神・岡田監督が「優勝」の意味で、かつ、選手の気負いを避けて発した言葉です。遠回しな表現はときに批判を受けるものですが、これは上手な使い方ですね。野球関連では【ペッパーミル】もキャンペーン序盤に多くご投稿いただきました。しかし、今となっては懐かしささえ感じてしまいます。来年も、矢継ぎ早に言葉が生まれていくことでしょう。

    ≪大賞≫【生成AI】は一過性の言葉かもしれません。その根拠は――

    【生成AI】の光と影、希望と危険性を語るのは専門家にお任せし、ここでは、新語としての側面に着目します。学習済みデータから答えを選ぶ従来のAIと異なり、無から有を生み出す【生成AI】は革新的な技術です。しかし、それにしては「生成」という言葉がくっついただけで、新語として地味に感じませんか? 「生成」は英語のgenerative(何かを生み出せる)の直訳なわけですが、私は、いずれこれが取れて、こちらを単に「AI」と呼ぶようになると思います。たとえば、現在「車」といえば自動車を指します。しかし、大正時代までは「お車を呼びますね」と言われれば、やって来たのは人力車でした。その後、新顔のガソリン車に「自動」と付けて造語したわけですが、すぐに「車」の呼称は自動車に取って代わられました。これと同じことが【生成AI】に起こる気がしてなりません。さて、どうなるか? 皆さまも注目しておいてください。

    「未来の国語辞典」というお題から、生成AI『Stable Diffusion』が創造した画像。
    ≪次点≫言葉の「安心感」がもたらす不幸? バイトではない【闇バイト】――

    キャンペーンにいただいた【闇バイト】の投稿は31件。そして、その多くが「違法なアルバイト」といった語釈でした。しかし、これは本当にアルバイトなのでしょうか? アルバイトに明確な定義はありませんが、パートタイム雇用とともに一定の法的保護の対象となっています。このため、SNSなどで【闇バイト】に誘われると「闇」とは言うものの「バイトなのだ」という気軽さと安心感から、犯罪に手を染めてしまった人がいるような気がします。言葉には、ものごとを正しく伝える本来の力だけでなく、逆に、本質をオブラートに包んでしまう力もあります。「パパ活」「やんちゃ」「いじる」などが代表的なオブラート表現ですが、【闇バイト】にもそれと同様な効果があるのでしょう。最初から「殺人にまで至る可能性がある仕事だ」と明かしてしまっては、わずかな報酬で引き受けるわけがありませんよね。

    一度手を染めると、それ自体を弱みとして握られ、なかなか抜けられないといいます…。
    ≪次点≫生まれたての【蛙化現象】にふたつの意味。上書きが起こる?――

    グリム童話『かえるの王様』が元となった言葉です。しかし、上掲の『大辞泉』の語釈を読んで「あれ?」と思う方もいるかもしれません。「交際相手の些細な行動がきかっけで、嫌いになること」と、特に若い方はとらえているのではないでしょうか。この言葉が現れたのは2000年代はじめですが、近年、いわゆる誤解釈が広まったことで注目されました。新しい言葉なので、意味の上書きは容易に起こりえます。新解釈が定着すれば『大辞泉』にも加筆が必要になるかもしれません。

    童話『かえるの王様』は、醜いカエルがじつは隣国の王子様だったというストーリー。
  • 大賞の【生成AI】をご投稿いただいた方の中から抽選で1名様にAmazonギフト券10,000円分をプレゼントいたします。

    • 当選者の発表は発送をもってかえさせていただきます。
    • X(旧Twitter)からの応募の方が当選した場合は別途ダイレクトメッセージにてお知らせし、お名前とメールアドレスなどをお伺いいたします。

    『大辞泉』が収録を検討している新語

    キャンペーン期間中に投稿された1,773語の新語の中から、実際に『大辞泉』に採用する可能性のある新語を編集部が毎月選定しました。合計29語の新語が選ばれました。

    5・6月の新語

    【蛙化現象】
    好意を抱いている相手が自分に好意を持っていることが明らかになると、その相手に嫌悪感を抱いてしまうこと。

    【闇バイト】
    高額な報酬と引き換えに、違法な行為をするアルバイト。

    【タイパ】
    タイムパフォーマンスの略。ある時間を投じて、それから得られるものがかけた時間に見合うかどうか。

    【公金チューチュー】
    NPO法人など補助金をもらって活動している団体が、本来の目的からは外れ、私利私欲や政治的活動など、目的外使用をしているさま。

    【ペッパーミル】
    MLBのヌートバー選手を中心に侍ジャパンチームで流行したパフォーマンス。いいプレーをした時に行われる。胡椒のように「身を粉にする」という意味も含まれる。

    7月の新語

    【ヒートドーム】
    高気圧が数日、時には数週間ほど停滞して、温かい空気に蓋をすることによって熱を閉じ込める現象。

    【地球沸騰化】
    世界中での異常な高温化を受けて登場した、地球温暖化に替わる語。7月に国連総長が警告した際に使った。

    【ネッククーラー】
    首輪のような装着する冷却用品。保冷剤が充填されているものと、ファンが付いた機械式のものがある。

    【ステルス増税】
    社会保険料の上乗せや控除の縮小など、国民が気づきにい実質的な公的負担増。

    【ブラックフェイス】
    ブラックルーツの人を模倣し、顔などの肌を黒く塗ること。 人種差別の歴史にひもづく行為で、アメリカなどでは批判の対象となっているが、日本のエンタメ業界などでは依然として繰り返されている。

    8月の新語

    【撮影罪】
    性的な盗撮行為による犯罪。2023年7月より施行。

    【鬼肩】
    野球で、球を早く遠くまで正確になげることの出来ることを意味する「強肩」を、はるかにしのぎ、まるで「鬼レベル」と言われてる選手の肩のこと。

    【デジタル免疫】
    デジタルシステムの安全を脅かすあらゆる危険性に早急に対応して、システムの保守や回復をする仕組み。

    【バーティポート】
    垂直離着陸できる航空機が離着陸する飛行場。vertical(垂直)とairport(空港)の合成語。住宅地や都心部にも設置できるようになったことで空を使った移動がより身近な存在になる。

    【溶かす】
    知らぬ間に時間が経っていたり、時間を空しく費やしたことを表現した言葉。時間つぶしを指すこともあるが、否定的な意味で使われることが多い。

    9月の新語

    【アフターコロナ】
    新型コロナが5類相当になり、自粛を解除して活動できるようになること。

    【頂上決戦】
    分野の秀でた者たちが、頂点をかけて戦うこと。

    【ナイトタイムエコノミー】
    概ね午後6時頃から翌朝6時頃まで経済活動が出来るように商業活動をすること。

    【一周回って】
    〔流行が一周するように〕程度が進んだ結果、結局もとに もどって。かえって。一回りして。一回転して。一周して。

    【借りぱく】
    借りたものをそのまま自分のものにすること。

    10月の新語

    【トーンポリシング】
    相手の意見の内容でなく、話し方や態度などを批判し、論点をずらすこと。

    【勝負飯】
    ここぞという勝負時に食べるご飯。

    【確信歩き】
    ホームランを打った事を確信した打者がゆっくり歩きながら一塁へ向かうこと。

    【八冠】
    将棋界の8つのタイトル(竜王・名人・王位・王座・棋王・王将・棋聖・叡王)。また、これらすべてを制覇すること。

    【マウンティング】
    人間関係の中で、自分の優位性を誇示すること。

    11月の新語

    【頂き女子】
    男性と親密な関係になり、同情を買うなどして金品を貢がせる女子。

    【サ終】
    サービス終了の略語。特にスマホアプリなどのサービスが終了するときに使われる。

    【アーバンベア】
    都市部に住むクマ。

    【かわちい】
    可愛いの言い換え。可愛いに比べ幼さをアピールした言い換え。

    • 投稿された語釈がそのまま収録されるのではなく、編集部が新たに執筆陣に依頼し『大辞泉』各種アプリなどに収録する予定です(一部の新語は、今年8月改訂時に既に収録しています)。

    これまでの受賞作品

    第7回
    1. 大賞
    1. 次点
    1. 次点
    • 大賞の【キーウ】の語釈は一般から投稿されたものです。今後、編集部で立項の採否を検討し、立項する場合は、執筆陣による語釈が『デジタル大辞泉』に収録されます。
    • 次点の【国葬儀】【メタバース】の語釈は今年4月に既に『デジタル大辞泉』に立項済みです。