2021 第6回大辞泉が選ぶ新語大賞

大 賞
【親ガチャ】

子供がどんな親のもとに生まれるのかは運任せであり、家庭環境によって人生を左右されることを、カプセルトイのランダム性に例えた言葉。

次 点【人流】

人の、移動を伴う一連の動静。また、人々の流動や動線。
――大辞泉2021年4月立項

※ 大賞の【親ガチャ】の語釈は一般から投稿されたものです。今後、編集部で立項の採否を検討し、立項する場合は、執筆陣による語釈が『デジタル大辞泉』に収録されます。

※ 次点の【人流】の語釈は今年4月に既に『デジタル大辞泉』に立項済みです。

2021年の新語投稿数ベスト10

【親ガチャ】【人流】【ゴン攻め】【推し活】【まん防】【副反応】※1
【マスク会食】【マスク美人】【マリトッツォ】【SDGs】※2

※1は2011年、※2は2017年に『大辞泉』に立項済みですが、今年あらためて話題になり、
多く投稿されましたので、投稿数ベスト10から除外しませんでした。

選考委員

選評

明治大学国際日本学部教授
田中 牧郎 たなか まきろう

1962年・島根県生まれ。東北大学文学部・卒業。東北大学大学院文学研究科・修士課程修了。東京工業大学大学院社会理工学研究科・博士課程修了。明治大学国際日本学部・教授。国立国語研究所・客員教授。日本語学会・評議員。日本医学会・用語管理委員。主な著書に『図解 日本の語彙』(三省堂/共著)。『近代書き言葉はこうしてできた』(岩波書店)。『コーパスと日本語史研究』(ひつじ書房/共著)ほか。

新型コロナ2年目の新語――

新型コロナ禍2年目の今年、1,509件いただいた投稿を見ると、やはりコロナ関連の言葉が多かったという印象です。しかし、昨年の投稿上位【医療崩壊】【自粛警察】【ロックダウン】など、パニック的な恐ろしい言葉は鳴りを潜め、「ワクチン○○」や「マスク○○」など、コロナ予防にまつわる新語が多数生まれました。夏ごろには【ワクチン難民】【モデルナアーム】など、「自分にはいつ順番が回ってくるのか」「打ったあと、本当に大丈夫だろうか」という不安を反映した言葉が多かったものの、秋以降、驚異的な接種スピードと国内の感染数激減から、【ワクチンパスポート】【マスク会食】など、久しぶりのレジャーを意識した、やや明るい言葉が出はじめました。

言う方も言われる方も悲しい【親ガチャ】――

さて、編集部との協議の末、大賞には【親ガチャ】を選ばせていただきました。これは一昨年ごろインターネットに現れた言葉ですが、今年に入り、メディアなどで大きく取り上げられるようになりました。現代社会は、機会だけは平等に与えられることが前提となっています。しかし、格差の拡大・固定化がはっきりしてきて、その前提がタテマエでしかないと見抜いた若者たちの、タメ息まじりの流行語と言えます。いわば「アメリカン・ドリーム」の対義語。本心から親に文句を言っているわけではなく、社会への怒りから生まれた皮肉なのでしょうが、言われた親は悲しくなってしまいますね。また、人生の価値を「ガチャ」という軽い言葉で表現していますが、これは本気ではなくニヒルな構えから出た「遊び」と信じたいところです。

【人流】は古くて新しい言葉――

次点は【人流】です。投稿数ベスト1と2をそのまま選考した形となりました。こちらは、じつは昭和のころから官公庁の統計や白書などに使われていた言葉ですが、『大辞泉』だけでなく『日本国語大辞典』『広辞苑』『大辞林』に未収録でした。意味は、当時も今もほぼ同じ。ところが、近年、スマートフォンなどの普及による、位置情報のビッグデータとしての公共化から、的確な把握が可能となって注目を集めています。さらに今年は、新型コロナへの対抗手段として「密」を避けるために大いに利用されました。ともすれば「個人情報の国家による管理が…」との懸念を呼びがちなことがらですが、スルッと日常の言葉へと定着を果たしたようです。

『大辞泉』に採用が決定した新語をご紹介します。

2021年のキャンペーンに投稿された1,509本の新語の中から、
『大辞泉』編集部が毎月、計35語をピックアップしました。

5月 6月
【高見え】
本来は値段が高くない物だが見た目が高そうに見える物。インテリアなどでよく使われる。
【路上飲み】
コロナ禍で飲食店が休業しているので、コンビニ等で酒類を買い路上で座り込んで飲んでいる人のこと。
【教え魔】
頼んでもいないのにやたらと教えてくる人。自分のやり方や考えが正しく、相手が間違っていると一方的に信じている場合が多く、感謝や尊敬を要求することもある。
【カニバる】
二つ以上の出来事の目的が同一で、お互いの求める利益が分散してしまうこと。
【マリハラ】
早く結婚しろ等のハラスメント。
【K字経済】
Kの字のように富裕層と貧困層の二極化が進む経済の状態。コロナ禍で顕著になった。
7月
【ワクチンパスポート】
海外に行く時に新型コロナワクチンを接種したことの証明書がわりになるもの。
【ファンアート】
キャラクターや実在人物を基にした二次創作や似顔絵。
【テレンピック】
テレビで見る、オリンピック、パラリンピック。テレリンピックとも。
【闇通勤】
会社から通勤手当として電車代などを受け取っていながら、自転車で通勤すること。
【キャンセルカルチャー】
個人及び団体の言動に大衆が強く反発して、起用の取り消しや不買運動などが起こること。その場合、公的な職や立場から退くことを求められる。
【溶かす】
資産運用などの結果、元本が減ること。
8月
【酸素ステーション】
入院待機中の中等症コロナ陽性感染者向けの酸素吸入のための施設。
【ゼロ打ち】
投票が締め切られた直後(開票率0%)に、当選確実を打つこと。
【ボディ・ポジティブ】
従来の美の基準に束縛されず、ありのままの自分を受け入れて肯定しようというムーブメント。自己卑下をやめ、自尊心を取り戻し、自分自身を大切にすること。
【わちゃわちゃ】
複数人が仲が良さそうに話している状態。
【ちゃんと感】
手間やお金をかけていないのに、そう見えないものやこと。
【これじゃない感】
想定と異なる結果。
9月
【親ガチャ】
子供がどんな親のもとに生まれるのかは運任せであり、家庭環境によって人生を左右されることをカプセルトイのランダム性に例えた言葉。
【おじさん構文】
おじさんがメッセージアプリを利用する際に見られる特有な文章。無駄に絵文字や顔文字が多い。無駄に「!」や「?」を使う。妙に馴れ馴れしい。余計な自分語りと自慢。セルフツッコミと言い訳。自覚の無いセクハラなどが特徴。
【幽霊病床】
新型コロナウイルス患者を「すぐに受け入れ可能」と申告しながら、ほとんど受け入れていない医療機関のこと。
【微アル】
「微アルコール」の略。ビールでもなくノンアルでもなく、酒税法上は清涼飲料水。
【ハイフレックス型授業】
同じ授業を対面授業とオンライン授業の双方で受講できる方法。
10月
【スピンドクター】
情報を操作して人々の心理を操る専門家。政治では、主に報道アドバイザーのこと。
【モチベーショナルスピーカー】
知名度のある一般人がSNSの職業欄に書く職業名。有名企業の元社員や元幹部が独立した後に名乗ることが多い。具体的な解決手法は提示せず、あくまでも前向きになれる弁論をする。
【ブースター接種】
ブースター(追加免疫)効果を狙うためのワクチン接種。
【保護猫(犬)】
飼い主がいないなどの理由で、一時的に保護施設や個人宅で預かる猫(犬)。
【チルする】
のんびりする。まったりする。
【耳コピ】
耳コピーの略。耳で聞いて、楽譜にしたり演奏したりすること。
【目詰まり】
進行が阻まれること。
11月
【自粛明け】
新型コロナウイルス防止対策のひとつ・緊急事態宣言期間及び蔓延防止対策等の任意の自粛期間が終了した後のこと。
【目汚し】
自分の作品や持ち物などを相手に見せることをへりくだっていう語。
【てまえどり】
食品のロスを削減するため、消費者に対して、商品棚の手前にある消費期限などが短い商品から順次購買してもらう行動。
【ミーグリ】
ミートアンドグリートの略。著名人と一般人が直接会って話せる交流会のイベント。
【ばらまき政策】
コロナ禍の経済対策として、国が国民に給付金を与える政策。

※ 投稿された語釈がそのまま収録されるのではなく、編集部が新たに執筆陣に依頼し『大辞泉』各種アプリなどに収録する予定です(一部の新語は、今年8月改訂時に既に収録しています)。

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