大 賞
【キーウ】
ウクライナの首都。同国中北部、ドニプロ川中流に沿う工業都市。精密機械工業が発達。9~13世紀にキーウ公国の首都として繁栄。ギリシャ正教協会などの名所・旧跡が多い。キーフ。ロシア語名キエフ。
※大辞泉の語釈
次 点【国葬儀】
国葬のようで国葬でない葬儀。
※まここしゃんさん投稿の語釈
次 点【メタバース】
《meta(超越した)とuniverse(世界)の合成語》インターネット上に構築される仮想の三次元空間。利用者はアバターと呼ばれる分身を操作して空間内を移動し、他の参加者と交流する。
※大辞泉の語釈
2022年の新語投稿数ベスト10
【2世信者/宗教2世】 【ウクライナ侵攻】 【ととのう】 【大谷ルール】 【顔パンツ】
【メタバース】 【知らんけど】 【国葬儀】 【インボイス制度】 【おじさん構文】
※【マスク美人】【推し活】も上位でしたが、昨年も投稿数ベスト10入りしていたので除外しました。 【ととのう】は一般的な「整う」でなく、サウナで爽快になるという意味での投稿でした。
選評
選考委員
明治大学国際日本学部教授
田中 牧郎 たなか まきろう
1962年・島根県生まれ。東北大学文学部・卒業。東北大学大学院文学研究科・修士課程修了。東京工業大学大学院社会理工学研究科・博士課程修了。明治大学国際日本学部・教授。国立国語研究所・客員教授。日本語学会・評議員。日本医学会・用語管理委員。主な著書に『図解 日本の語彙』(三省堂/共著)。『近代書き言葉はこうしてできた』(岩波書店)。『コーパスと日本語史研究』(ひつじ書房/共著)ほか。
≪総論≫コロナ新語は出尽くし?しかし代わって登場の新語も暗い世相を反映――
1,838件いただいた投稿から、今年は34の言葉を月間賞としました(ページ下方参照)。振り返ると、コロナ関連は【匿顔】【顔パンツ】【黙撮】と軽めの3語のみ。新型コロナは今年も第6、7波を引き起こし、第8波が懸念される今も「収束した」と言える状況ではありません。しかし、一般で話題になる機会は減っているように感じます。ここ2年半で「コロナ語彙からの新語」は、ひとまず出尽くしたのではないでしょうか。 代わって今年は、国内外で戦争と暗殺という大事件が発生しました。しかし、どちらも「21世紀の今なお、こんな惨事が!」と、私たちを過去に引き戻すかのような出来事であり、それゆえ、全く未知の新語が生まれる要素は少なかったようです。【宗教2世】【非ナチ化】などに月間賞を差し上げましたが、厳密には新語とは言い難いでしょう。暗い言葉を選ぶのは、これっきりにしたいと願わずにはいられません。
≪大賞≫【キエフ】から【キーウ】への変更がもたらした「新語」体験――
「地名が新語?」しかも「新しい街でなく、古くからの首都でしょ?」と、違和感を覚える方もいらっしゃるかもしれません。しかし、編集部との協議の末、ウクライナ語の【キーウ】は日本では「新語」にあたるとして、今年の大辞泉新語大賞としました。日本の外務省は、ウクライナ侵攻の約1か後、これまで使っていたロシア語の呼称【キエフ】からの変更を決め、マスコミ各社も追従しました。ウクライナ政府は以前から同国語で呼ぶよう求めていましたが、日本政府は対応していませんでした。今回の変更は、侵攻への非難を込めた異例の即決だったと言えます。ただ、ウクライナ語のドニプロ川(ロシア語ではドニエプル川)など、両国にまたがるものはどう呼ぶのかなど、日本全体のコンセンサスは未形成です。こういった課題を残しつつ、今年、「ことばが動く・変わる」ことを端的に示したトピックとして、大賞としました。
≪次点≫【国葬】と【国葬儀】の違い、辞書は今後、どう示せるか――
9月に執り行われた安倍晋三元総理の葬儀を、政府は【国葬儀】と呼んでいます。【キーウ】が官民ともに呼称が統一されているのに対し、マスコミの多くは【国葬】としており、食い違いが生じています。【国葬】はもちろん大辞泉に既存なので新語ではありません。一方、【国葬儀】は知りうる限り全ての国語辞典に載っていません。「国葬は弔意を国民に強いるもので、その意図は無いことを言い逃れるための造語だ」と、批判する声もありますが、1967年の吉田茂元総理の葬儀も【国葬儀】だったので、今年生まれた造語ではありません。辞書には載っていない極めて不思議な言葉で、岸田首相もその違いについて「一概にお答えすることは困難」と答えています。しかし、国によって2回も行われた行事を、辞書が立項しないわけにはいきません。現在、私たち大辞泉執筆陣・編集部が大いに頭を悩ませているところです。
≪次点≫ 新たな価値を生み出してほしい、【メタバース】に期待――
【メタバース】は、昨年ごろから目に付くようになり、今年、大いに語られた言葉です。約20年前の【セカンドライフ】との違いがよくわかりませんが、ネットの単なる「見せ方のひとつ」にとどまらず、「場」自体が売買され価値を生み出す仕組みがあるとのこと。今後どうなるかは未知数ですが、せめて1つは前向きな言葉を、ということで次点に選びました。
『大辞泉』に採用が決定した新語をご紹介します。
キャンペーン期間中に投稿された1,838語の新語の中から、
実際に『大辞泉』に採用する可能性のある新語を編集部が毎月選定しました。
合計34語の新語が選ばれました。
- 【組み戻し】
- 誤送金したのち、送金先の承諾を得て送金分を戻す事務処理。
- 【チェアリング】
- 持ち運びできる椅子を野外に設置して、読書、食事、飲酒など思い思いに過ごすこと。
- 【勝手橋】
- 河川管理者の許可を得ずに、地域住民などが勝手に架けた橋。洪水に流されることもあるため「流れ橋」とも呼ばれる。
- 【これじゃない感】
- 自分の思っていたもの、期待していたもの、知っているものと微妙に違うこと。主に残念な意味で使われる。
- 【匿顔(とくがん)】
- マスクを着用することが一般的になった社会において、コミュニケーションをとる際に相手の顔を知らないままであること。
- 【トンデモ】
- 「とんでもない」の略。もってのほかだ。「トンデモな発言」「トンデモ論」
- 【ローンウルフ】
- 一匹狼的なテロ行為者。
- 【パワーカップル】
- 高収入どうしの共働き世帯のこと。
- 【スクリューフレーション】
- 生活必需品の物価上昇により中低所得層の生活が苦しくなる経済現象。
- 【全振り】
- ゲームで、特定のパラメーターにすべての数値を割り振ること。特定の分野にひたすら注力すること。また、ありったけに使うこと。「かわいさに全振りした服」
- 【学ちか】
- 就職活動のエントリーシートや面接で、学生が力を入れて頑張ったり取り組んだとアピールする内容。
- 【整う】
- サウナ、水風呂、休憩を繰り返す事で多幸感を得る。サウナ以外にも自分の趣味を通しサウナになぞって多幸感を得る
- 【モブ社員】
- 会社で目立たない人、存在感のない社員。
- 【シャドウバン】
- 不適切な投稿をツイッターでした際に、自身のツイートが他のユーザーから検索されなくなること。
- 【フラットアース】
- 地球が球体ではなく、平面であるという主張。また、そのような地球。平面地球説。
- 【宗教2世】
- 特定の宗教を信仰する家に育った子どもたち。
- 【顔パンツ】
- マスクのこと。パンツを脱いだ姿を見られるのが恥ずかしいのと同様に、マスクを外した顔を見られるのが恥ずかしいことから。
- 【芯を食う】
- 野球やゴルフで、ボールの中心をうまくとらえて打つ。また、核心をつく。的を射る。
- 【非ナチ化】
- ネオナチ、極右的な政府を倒すこと。また、これらの勢力に支配された地域を解放すること。
- 【よっ友】
- 「よっ」と挨拶しあうだけの関係しかない友達。
- 【弔問外交】
- 各国の王族・元首・首相などの死去に伴う葬儀において、諸外国から参列した要人が、その機会を利用して展開する外交。
- 【パパゲーノ】
- 死にたい気持ちを抱えながら、その人なりの理由や考え方で、死ぬ以外の選択をしている人。
- 【量産型女子】
- ファッションやヘアスタイルの流行に忠実すぎて、他の女性と見分けが付かないほど没個性な女性たち。
- 【使い倒す】
- 徹底的に使う。使い尽くす。
- 【黙撮】
- 複数人がマスクを外し、声を出さずに、集合写真を撮ること。
- 【メニュー貸し】
- 飲食店が、他店にレシピを教えてもらった料理を提供すること。
- 【なつい】
- (主に若者言葉で) 懐かしい。
- 【デジタル給与】
- 銀行口座ではなく、資金移動業者のアカウントに振り込まれる報酬。
- 【スペック】
- その人の外見・学歴・年収など。
- 【ずぶずぶ】
- 悪いとされている人や団体と仲がよく、批判されても縁を切るのが難しい状況のこと。
- 【ヌン活】
- リッチにホテルでアフタヌンティーを食べながらおしゃべりを楽しむこと。
- 【知らんけど】
- 自身のは発言内容に自信が持てない場合、語尾に付ける言葉。
- 【倍速視聴】
- テレビや映画、ネット配信など、元々の映像速度を変えて、再生・視聴すること。
- 【方向感】
- ものごとがある方向へむかうという感じ。
※ 投稿された語釈がそのまま収録されるのではなく、編集部が新たに執筆陣に依頼し『大辞泉』各種アプリなどに収録する予定です(一部の新語は、今年8月改訂時に既に収録しています)。